わたがしをつくる

目の隈が永遠に抜けないままなにか書いている。

蒼星 外核

 

また本を書きました。

 

5月3日にて開催された『声音の宴3次会』にて頒布させていただいた新書本、『忘れ時の蒼星』略称『蒼星(そうせい)』。

今回こちらについてお話を出来たらと思います。

 

……と言いたいのですが、今作は諸事情により前後編となっており、後編はまだ先の11月頒布予定。

そのため中身に関してはざっくりと、「これから先」という部分に焦点を当てた話をさせていただこうと思います。

 

それでは前作ののはのと同じ様に感想戦、行ってみましょう。

 

 

まず本の手触り。

今回はマットPP加工(ののはのの初版と同じ加工)をカバーにさせていただいてるのですが、やっぱりいいですね……。

マットPPは感触がほんのり人肌に近くすべすべしており、手触りが正直好きです。触れてる、という感覚の体験がかなり強いので。

それはそれとして、今回は締切がののはのの時とは大きく違い、3週間ほど前倒しの状況になっていました。そのため二版で行ったベルベットPP加工を断念しています。(本当は今回もベルベットにしたかった)

前編と後編、今回はギミックとして2冊両方を持っている場合に……という体験を用意しているため、ベルベットPPに関しては通販含め行わないと思います。(ある程度共通の体験を手に入れた人にはしてほしい、というのが今回に限っては強いため)

それでもマットPPは妥協した、みたいな気分にはならず、本当に良い手触りで凄く好き。撫でたくなるような質感と、イラストの質落ちがし辛いのが加点ポイント高いです。

 

そして見た目。

今回もナごと先生にお願いして描いていただきました。

表紙

めちゃ良です。(後編へのネタバレがありすぎて多くを言えなさ過ぎる)

今回お願いさせて頂いた表紙のテーマとしては

『結月ゆかりが最も欲しかった、その上で手に入らないからこそどうしようもないほどキラキラと美しく』

です。

本作、忘れ時の蒼星は『土台』がどこまでいっても付きまといます。

それはなぜかと言えば主人公たる結月ゆかりには踏む足場すらない、謂わば宙に投げ出された状態でただ死を待つ(※1)だけの存在だったからです。

 

本作結月ゆかり、偽名結月雫は一章の時点で判明しますが、両親を最悪な形で亡くしています。ゆかりはそれに対し「私がパパとママを殺した」と前編ラストまで幾度となく明言しており、ゆかりにとってこれから先、何があろうとその一点は揺らぐことのない、心に刺さった釘のような物となっています。

ですがその釘は紲星あかり、偽名紲星かがりが出会った時点で錆となり、毒としてゆかりの思考と心を侵していました。

元来のゆかりはまっすぐ、朗らかで、自信に満ち溢れた強く、優しい少女です。

しかしプロローグ~一章、そして前編終幕までの間、その姿は垣間見えこそするものの、どちらかと言えば自我を守るための防衛的行動……端的に言えば幼子に近い行動をあかりに対してしていきます。

この様子を踏まえ、話を進めていきましょう。

 

まずプロローグ。

結月ゆかりは極度に会話が出来ない状態になっており、謂わばゲームの選択肢式の会話を想定した話し方しかできなくなっています。

それは両親の死に対し『自分の発言』が結果として関わっているため。

 

一章 P51-52

「葬式の日、私はたくさんの憐れみ、と言えばいいんでしょうか。そんな目を向けられました。幸い祖母が健在だったので施設とかそういうのは無かったですけど、それでも父と母をいっぺんに亡くした子供というのは、やっぱりそういう風に見られます。それがきっと普通なんでしょう。でも私はあの日、その雰囲気が吐きそうなほど気持ち悪かった。だって、だって違うんです。パパとママが亡くなった本質的な理由は、不憫とか不慮とか不運とかそういうものじゃない。そうじゃないんです。なんで頭のいいパパとママがあの日に、自分たちの車で帰る事を決めたかって、選んだかって、私のせいなんです。私が、パパとママに選ばせたんです。パパがクリスマスには帰るって言ってくれてたのに、私は誕生日は家族で過ごすものだって、そうパパとママが前に言ってたってごねたから、だからパパは無理して仕事を終わらせて帰ろうとして、ママだって仕事が忙しかったのにパパを迎えに空港までいって、豪雪によるホワイトアウト?違うの。路面凍結による事故?違うの!私が、私がパパとママの運命を変えたの、私がパパとママの命を奪ったの。私が、パパとママを殺したの。 ―― だから、私は皆にそう言ったんです。私が二人を殺したんだって。私は被害者じゃない。私が、私の責任で、二人は死んじゃったんだって。…… それから、ずっと一人で過ごしています。みんな、私に近寄らないので」

―― でも。そう言葉を付け加える。
「自分で選んだのに、自分で招いた事なのに、言ってはいけないと、口にしてはいけないと、思ってはいけないと分かってるのに、分かってるのに…… 苦しいんです。こんな自分は誰とも関わっちゃいけないと思って一人でいるのに、家に帰るたびに苦しくて、胸が痛くて、身体が寒くて、こんなこと、私は思う資格なんてないのに、
それでも―― 」

――寂しい。ああそうだ。私、寂しいんだ。ふっと浮かんだ言葉は、心にストンと落ちた。その言葉が浮かび安堵した瞬間、身体が浮いてしまうんじゃないかと思うくらい強く引き寄せられ、次の瞬間にはもう、隣りにいた彼女に痛いほど強く、強く、身体の芯が折れてしまいそうな程に強く、抱きしめられていた。

 

そう、物語の始まりからゆかりは死を引きずり続けているのです。

中学1年生のゆかりは一人、ずっと両親を亡くしてからの一年間、両親が死んだ原因と向き合い続け、両親の死を直視しようとしている。

にも関わらず、結月ゆかりは両親の死と向き合えたことはありません。

※ゆかりはあかりへと作中の色んな所で両親の死後に関する一年の話をしますが、ゆかりにとって実家たる家には仏壇が無く、葬式も最後までその場にはきっと居ることは出来ず、墓参りもできていない。

 

三章 208P

私はその手を握り返しながら、言葉を選び続ける。
「篝さんに教えた通り、私はパパとママを殺しました。…… そんな怖い顔しないでください。やっぱり私の中でそれはずっと、変わらない事なんです。私が生きてる限り忘れもしないし、毎日でも思い出すことなんです。…… でも正直、本当は、結構しんどくて。だってパパとママが生きていた頃の記憶は家にも、この街のどこにも、無い所が無いんです。少しずつ霞んでいくのかなって思ってたけど、声も表情も、香りも仕草も、思い出せる場所しか無いんです。パパとママに謝りたいって思っても、家には仏様もいないし、一周忌があるって分かってても呼ばれることもなくて。あ、篝さんは49日って知ってますか?追善供養ついぜんくよう
って言うんですけど、人が死んでから49日間、毎日お参りするんです。天国に行けますように…… って。今の時代だと毎日なんて難しいから、49日目にお参りするのが普通らしいですよ。私は、何にも出来てないですけど」
ぎゅ、っと手が痛いくらいに握られる。また自暴自棄になり掛けていた訳ではない。私は、この一年を彼女に
知って欲しいのだ。何がずっと、私は出来なかったのかを。

 

上記でゆかりは追善供養の話をしていますが、なぜ彼女がそれを知っているかと言えば、両親の死と向き合うすべを調べたからでしょう。

本作結月ゆかりは非常に利口な子です。作中でこそ精神的に不安定な幼子の姿を多々見せますが、自分が今のままではいけない、両親のためを思えば前を向き生きていかなければいけない……そんな答えにはとっくに辿り着けている筈です。

 

ですがそれ以上に誰も手を差し伸べないどころか、両親の死と関われる機会を遠ざけているのがゆかりの周りの大人達。

もう少しゆかりが大人だったら、もう少し先の話だったら彼女はきっと乗り越えられていたかもしれません。でもそうはならなかった。

中学一年生というゆかりにとって多感な時期の始まる前に、それを支える土台は消え去り、ゆかりは助けてという言葉も失い、両親を亡くした日の象徴として雪をもトラウマとして持ち、ただただ無為に死を見つめ死を待つだけだった子。それがこの時の結月ゆかりでした。

 

ゆかりにとってそれはひとりぼっちで宇宙に放り出され、転んだまま起こしてくれる人も、自力で起き上がることも出来ずただ足掻いて残りの酸素を消費するだけ、そんな孤独に包まれた失意の状況だったでしょう。

けれどそんな状況でも彼女は誰かを恨むことはせず、やはり憎み、恨み、傷つけようとしたのも自分という存在に対してだけでした。

 

そんな中、彼女の前に現れたのが紲星かがり(偽名)

 

☆ 224P

―― だけど。
「…… 私は多分、あの子に対して何があろうとする事も言う事も変わんなかったですよ。あんな子、放って置いてるほうが、ふざけてます」

 

二章 101P

彼女の……ゆかりさんのご両親は、私に何を思うだろうか。その立場を一瞬でも奪う私に、盗っ人とでも蔑む
のかもしれない、ありったけの罵詈雑言を、いつか私に訴える日が来るかもしれない。そう遠くない未来を想像するだけで胸を酷く締め付ける。
「ねえ、雫さん」
しかし、それでいい、それでもいい。
「お腹、すいたでしょう?温かいの、用意したんです。ちょっと作りすぎちゃったんですけど、一緒に食べま
しょう?」
私は決めたんだ。もう、彼女に何も失わせないと。彼女が望むのなら、彼女がしてくれた全てを尽くす事を。
「ご飯を食べたらこれからの事も話しましょう?必要なもの、きっといっぱいあると思うんです。それに雫さ
んの事ももっと、沢山のことを知りたいです」
だから、どうかお願いだから――

「どう、でしょうか。雫さん」

―― 今だけは、彼女を誰よりも愛することを許してください。

 

二章 109-111P
「ご両親にとっていっぱい食べて欲しいと思うのは、雫さんに大きく育って欲しいという愛情そのものです。でもそれだけじゃなくてきっと、健康にも育って欲しいと思うんです。…… 雫さんにアレルギーが無いと分かってるのは、ご両親がそれだけ沢山の食べ物を雫さんの口に一口だけでもと触れさせてきた、そんな努力の証だと思います。同じ様に、雫さんにとって苦手な食べ物が分かってるのは、雫さんに健康であって欲しいと願って身体に良い食べ物を沢山雫さんに触れさせてきたから。…… 雫さんはどんな食べ物が苦手ですか?」
紲星さんの質問に言い淀むが、彼女は「大丈夫ですよ」と言ってきたため、ちゃんと伝えることにする。
「…… ピーマンと、玉ねぎ」
「ふふ、私は人参が苦手です」
「えっ?」
人参、こんなにごろっと入ってるのに?そう思い思わず声を上げてしまうが、紲星さんはスプーンで人参を
掬い上げ、ぱくりと口にした。それからゆっくり咀嚼してから飲み込み、また話始める。
「私、一時期本当に食べ物がお腹に入らない時期があって、正直食事そのものが苦手だったんです。でも、少しでも多く、少しでも身体に良い物を食べさせたがった人がいて、こうやって苦手な物が入ってても食べれる調理法も、必死に考えてくれたんです。雫さんのあげた料理も、多分一緒だと思います。ご両親が雫さんの大好きな食べ物、身体にいいけど苦手な食べ物を見つけて、その上で雫さんに両方食べて欲しいから、小さく刻んで混ぜ込んでたり、溶け消えるくらいに煮詰めてたり、気付いても気付かなくても、それを雫さんがいっぱい食べてくれる。それがきっと雫さんの知ってる『家族みんなで食べるご飯』だと思うんです」

―― ねぇ、雫さん。と紲星さんは言葉を続ける。
「私も、雫さんにいっぱいのご飯を食べて欲しいと思っています。それはご両親の想いとは少し違うかもしれませんが、でもする事は一緒です。雫さんにおいしいと思ってもらえる物を作って、その上で雫さんが日々健康に生きていけるような、栄養のある物を食べて貰いたい。なんでかって…… 料理はおいしいと言ってもらえたら、安心出来るから。付け加えるなら、雫さんにおいしいと言ってもらえたら、とても嬉しいからです。作ったものを口にして貰えないのは、とても怖い事です。だって口に入れて貰うというのは信頼が必要で、信頼が欠けたら生きる糧を口にしてもらえなくなってしまうから。―― 雫さんのご両親も、同じくらい悩んで、日々ご飯を用意してきたはずです。そうじゃなきゃ雫さんの口から『家族みんなで食べる』なんて言葉、出てこないと思います。きっとそれだけ…… 雫さんに伝わっていたくらい、ご両親は大事にしていた部分だと思うから」

―― だからね、雫さん。息を吐くように、紲星さんはまたふわりと笑う。
「あなたが食べてはいけないものなんて、何一つ、決して無いんです。これから雫さんは、そうやって沢山、沢山嫌でも向き合う物が出てくると思います。だってそれだけ沢山、ご両親はあなたに多くの物を遺していってしまっているから。与えたもの、与えきれなかったもの、与えたかったもの、その全てをきっと、知っていく日が来ます。でも、そのどれもがあなたを確かに愛し、慈しんだ全てだから―― 怖がらなくていい、不安にならなくていい。あなたは、受け取るべきです。これからご両親の事を、きちんと知るために」

―― それにね。雫さん。と彼女は同じ様にしんしんと語り掛けてくる。
「私、雫さんと一緒にカレーを食べたいです。ご飯はやっぱり、誰かと一緒に食べた方が、ずっとずっとおいしいですから」

―― どう、でしょうか。

 

 

二章 131-132P

「雫さん」
「…… はい」
彼女の呼びかけは変わらず酷く優しげだった。扉の向こう側なのにやはり、彼女の声はずっと凛と響き聞こえる。
「私、あなたを愛しています」
「…… は、い?」
だからこそ耳を疑った。決して聞き間違えではない、彼女の言葉に。
「何を言っているか理解出来ないと思います。でも私、これからもあなたに嘘を吐き続けるからこそ、ここだけは信じて欲しいので言います。…… それを前提に聞いて欲しいのですが、私はあなたと一緒にいられるだけで嬉しいし、たった一言の会話でも春の日向のように暖かさを感じます。あなたが悲しんでいるなら涙を拭ってあげたいし、怒っているなら抱きしめたいとすら感じます」 

 

三章 185-186P

「昨日伝えたように、これから雫さんは沢山、沢山向き合う物が出てくると思います。それは云わば成長痛のようなもので、雫さんが一年間止めてしまっていた時間分、嬉しいこと楽しいこと、悲しいこと怒りたくなること、その全てが一人で処理できないくらい、わっと一遍に雫さんは感じてしまって、きっと心はぐちゃぐちゃになってしまう機会が沢山あります。雫さんは人一倍目が良いので、きっと遅れを取り戻すように頭も、心も、身体もどんどん大人になろうとしていきます。でもそれは本来小雨で当たるべき痛みや苦しみが、バケツをひっくり返すようにあなたに降り注いでしまうのと変わらない。癒える筈の小さな傷も、消えない傷として遺れば違うものになってしまう。こうやってたった数日でも何度も私達は衝突していますが、私は雫さんがやりたくてやっている物ではない、というのは理解しているつもりです。それだけあなたは周りをよく、しっかりと見れています。見過ぎて億劫になってしまう程に」
紲星さんは頭を撫でるのをやめ、私の下がりきっていた両手を掴み、両手で包むように握る。
「私は雫さんを支えられたらと思っていますが、あくまでも精神面、健康面でしかあなたに関わることは出来ません。どこまでいっても、やっぱり私達は他人だから。でもね、雫さん。雫さんが必要以上に感情の琴線に触れてしまうのは、私を通して雫さんが欲しかったご両親の何かを求めてしまっているからだと思います。それは私としては…… どちらかと言えば嬉しいです。そういう風に想って頂けているのも、凄く幸いです。だからこそ私は、雫さんに冷たく、火傷してしまうような正しさでも口にすると思います。それは雫さんが必要以上に傷つく日が来ないための麻疹みたいな物ですが、それでも私の言葉に傷つかないでとは言えません。なので…… 私の言葉に対し、雫さんが言い過ぎだと思ったり、怖かったと思ったら口にして貰いたいです。私はやっぱり、どこまで行っても親を経験したことはないし、お姉ちゃんの記憶を元に理想の年上をしようと努めているだけに過ぎないから、雫さんにとって100の本来傍にいるべき大人をやれる訳では、どうしてもないから。…… だから、ええと…… 」 

 

多く、本当に多く台詞がある中、一部を抜粋させていただきました。

偽名を使うあかりはゆかりに対し『他人』と言いつつ、ゆかりに対しひとえに誠実であろうとたくさんの言葉を重ね、異常なまでに多感なゆかりと衝突し続けても、言葉を紡ぐ事を決して諦めたりしません。

 

そんなあかりに対し、ゆかりは酷く頭を悩ませます。

私は謎に傍にいてくれる彼女に何を望んでいるのか、と。

あかりはゆかりへ『愛している』と理由を言いこそすれど、想いをゆかりに理解してほしいといった行動を取るわけでもなく、『他人』であるという言葉を使い、ただひたすらに結月ゆかりが一人で立ち上がれる状況を構築していこうとします。

それはまさしく足をつくための『土台』が消失してしまっている結月ゆかりにとって必要な物でありつつ、ある種紲星あかりに依存しかねない状況にも関わらず、あかりは一定のラインを元にゆかりとの関係を保とうとするため、

ただゆかりが辛く苦しい時は、涙尽きるまで抱きしめ

ゆかりが何か悩み恐れる時は、ゆかりにとって最も必要な答えを模索し

紲星あかり自身が心情で明言している通り、そのやり取りは『家族かつ親』の在り方に近いものです。

 

けれどゆかりはあかりに対し親代わりを望むことを言葉でも心情でも拒否しています。

前編中、結月ゆかりと紲星あかりは数え切れない程衝突を繰り返します。しかし全く同じ衝突はしていません。

なぜなら一度の衝突でゆかりはあかりの事を理解し、またあかりはゆかりの在り方を理解し、互いに何が誤解なのか、何が衝突の原因となったのか、何が本来緩衝材として存在し、自分に足りていなかったのかetcetc……衝突のタイミングで二人は大抵近いやり取りを行い、衝突が起きないすり合わせをしています。(しきっている訳では決してない)

あかりは鯛焼き喧嘩の際、ゆかりへの叱りを途中で切り上げます。それはあかりにとってゆかりとの衝突とはあくまでも対処療法に近いから。

 

後編へ差し込んだ話となってしまいますが、紲星あかりは結月ゆかりと長く一緒に居られると思っていません。限界値として精々半年、というのが彼女の見込みとなっています。

そのためあかりは半年で自分が存在として居なくなっても、結月ゆかりが最低限生きていける未来を想定して動き続けています。

つまりあかりにとってゆかりとの衝突は既に衝突出来た時点で達成事項が存在しており、もし自分以外と同じ衝突をしそうになっても思い出し踏み留まれる、思い出し俯瞰した挑み方を出来る……。

 

後編に何が携わってるかと言えば、結局あかりがしていることは自らがゆかりにとっての踏み台として、『土台』代わりとして存在することに他なりません。

 

そんなあかりに前編を経て成長したゆかりが、立ち上がり方をようやく知り後編へと進む事が出来たゆかりが、あかりのそんな在り方、関わり方に肯定できるかと言われれば……

 

だからこそゆかりはあかりに関係として何を最も望んでいるかを悩みます。

愛とは何を持って証明とするのかを考えます。

彼女にとって、ゆかりにとって独り立ち出来た時、最初に向き合う事になる存在は紲星かがり(偽名)。

 

 

―― 大丈夫。そう、今の自分に、心で言えた。


「私、頑張るから、生きて、ちゃんと生きて、あなたにも、パパにも、ママにも、抱きしめられた時に自分なんかが、って、思わなくて済むくらいに、思わなく出来るように、頑張るから、友達作ったり、勉強も運動も頑張ったり、将来とかよくわかんないけど、でもあなたの『愛してる』って言葉にいつか、私なりの答えを出せるように、頑張って、生きてみるから、だから、だから、だから…… っ!お願いします…… っ私の傍で、私のこと…… っ、見守っててくれませんか…… っ?」


あの日、篝さんと明日と約束した場所。その場所で私は頭を下げた。

 

 

忘れ時の蒼星・前編は全てが土台です。本当は後編と分けたくないくらいに土台です。

この言葉をあかりへと告げるまで辿り着けた結月ゆかり雫を、出来ることならあかりと同じ様に見届けてもらえたら嬉しいです。

 

冬のダイヤモンド

 

物語に出てくる子は、きっとこの物語をバッドエンドと言うでしょう。

ですがハッピーエンドを諦める子達ではきっとない。

どこまでも弱く、それでいて強く在れる子たちの話をよろしくお願いします。

 

後編予定:11月ゆかりコレクト